北海道北見市 司法書士 森谷 崇継(もりやたかつぐ)のブログ

北海道北見市 司法書士 森谷 崇継(もりやたかつぐ)です。相続や登記、司法書士業務について発信します。

司法書士の責任

司法書士 森谷崇継(もりやたかつぐ)です。
北海道北見市にて司法書士を生業にする者です。

 

司法書士には、月に一度、司法書士制度・法律実務・法律(法令・判例・通達)・経済及び社会問題等に関する記事を主たる内容とした司法書士会員向けの機関紙月報という冊子が届く。

 

司法書士全員が漏れなく注視するページがある。

なんならそのページしか見ていない人が多数だろう。

それは「懲戒処分事例」だ。

 

毎月様々な処分事例が掲載されているが、主に預り金の使い込み(横領)が多い印象だ。しかしながら、真っ当な司法書士からすれば「横領」なんて事例は大抵流し見で済ます。(なぜなら好き好んで犯罪に手を染めようと考えている者はおらず、犯罪という行為をフラットにして考えてもたかだか数百万、数千万に対するリスクが高すぎるからだ。横領という事例を目にした一般市民は、司法書士に対して不信感を持つかもしれないが、素直に考えてほとんどがメリットのない行為であることを理解してほしい。)

 

では、我々司法書士の目に留まる懲戒処分事例とは、どのような内容か。

それは「本人・意思確認」に関する処分事例だ。

 

とにかく大半はモンスタークレーム染みたものが多い。「なら実社会でどうすればいい?」「司法書士に確認するスキルがあるのか?」と思わず愚痴を漏らしたくなるような無理難題の責任を司法書士に転嫁するのが「本人・意思確認」の過度な義務付けである。

 

高齢者の意思能力の確認、そんなのは司法書士では白か黒かを判断できない。

司法書士は医師なのか、精神鑑定医なのか?

成りすましをしている犯罪者を見破ること、そんなのは司法書士では分からない。

司法書士は、刑事なのか?探偵なのか?鑑識能力があるのか?

そして、”これを確認すれば責任を逃れることが出来るよ”というような基準もない。

ただただ、一方的にババ抜きを押し付けられているわけだ。

 

とはいえ、積み重ねた懲戒処分事例から”少なくともこれは確認する必要がある”、”これを怠ると一発アウト”という基準線を引いていくことが出来るわけで、心もとないが、その薄い線を確認するために全司法書士が注視しているわけだ。

 

例えば高齢者の意思確認を売買日より前に本人・意思確認を自宅で済まし、その数週間後に決済が行われた場合、本人確認後に急に認知症が進行し決済当日には意思能力を失っていたなんてことがあるとする。当然直前日に確認する機会はあるわけだが、結局「売買日当日どうなっているのか」が大事なわけで、察しの通り上記事例に当たってしまえば司法書士は懲戒処分の対象となる。

そして、いとも簡単に業務停止や資格喪失を喰らう。

懲戒を喰らえば食い扶持を失い、簡単に生活は崩壊する。

 

だから最低限の義務をどうしてもクリアしたい。

懲戒に緩い業界には分からないと思うが、司法書士は”常に”命綱なしの綱渡りをしている。そして、報酬が安いという意味でリターンも非常に安価だ。

月に1件こなせば暮らしていけるような報酬相場であれば、どこまでもリスク管理を意識して業務に臨めるが、月に10数件こなしても微妙なとこなのが司法書士相場だ。

 

確認する技能がないのに懲戒の対象となるその基準の不明確さ、安価な報酬相場、他業界と圧倒的な差がある本人確認や意思確認の責務、業界全体の課題だと考える。

 

本稿は、一人の司法書士の個人的な意見であり、この重たい責任があるからこそ国民の権利擁護が可能となっている事実とは一旦切り離して書き起こしていることをご理解いただきたい。

 

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